メタバースとは?メリット・課題・ビジネスへの活用事例を解説
メタバースは、現実と仮想が融合することで新たな可能性を生み出すデジタル空間です。顧客との新しい接点を創出し、これまでにない形でエンゲージメントを高めるだけでなく、業務効率化や新たな収益モデルの構築にも寄与します。
本記事では、メタバースの概念やメリット、課題、活用事例について詳しく解説します。
目次
メタバースとは
メタバースに関わる技術
XR
無線ネットワーク
ブロックチェーン
生成AI
メタバースのビジネスにおける活用例
ショッピング
旅行・イベント
ゲーム
メタバースのビジネス利用のメリット
新しい販促活動やマーケティング手法の展開
コスト削減と運営効率の向上
多様な人材が活躍できる場の提供
ブランド価値の向上
メタバースのビジネス利用の課題
制作に時間がかかる
慣れているユーザーでなければ始めにくい
十分なスペックのデバイスが必要
メタバースの活用事例
【三越伊勢丹】スマートフォン向け仮想都市空間サービス
【川崎重工】インダストリアルメタバースを計画
【KDDI】新メタバース・Web3サービス「αU」
【バンダイナムコ】BANDAI CARD GAMES Metaverse Lobby
【ANA】リアルとバーチャルが融合する新感覚旅行アプリ
【株式会社メタバーズ】メタバースにAIコンシェルジュを導入
メタバースとは
メタバースは、ユーザー間でコミュニケーションが可能な、ネットワークを通じてアクセスできる仮想的なデジタル空間です。さまざまな定義が提唱されていますが、総務省資料では以下の条件を備えている仮想空間を「メタバース」と定めています。
多くの場合、メタバースは3次元(3D)の仮想空間として構築されますが、利用方法に応じて2次元(2D)やスマートフォンからのアクセスが可能なものもあります。
メタバースに関わる技術
メタバースには、下記の技術が関わっています。
- XR
- 無線ネットワーク
- ブロックチェーン
それぞれ詳しく見ていきましょう。
XR
XR(Extended Reality)は、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)を含む技術の総称です。それぞれの特徴は下記のとおりです。
XRについて詳しくは下記をご覧ください。
XRとは?VR・AR・MRとの違いや市場規模・事例を紹介
無線ネットワーク
現在の主流である5Gは、高速通信と低遅延の特性を持ち、大容量通信およびリアルタイムでのコミュニケーションが必要なXRの可能性を大きく広げることが期待されています。
さらに、6Gに関する研究開発がアメリカ、中国、インド、日本、韓国、EU諸国で進行中です。6Gは5Gの後継技術として、通信容量の拡大、レイテンシ(遅延)のさらなる低減、信頼性の向上を目指しており、XRやIoT、スマートシティといった分野での応用がさらに広がると予測されています。
ブロックチェーン
ブロックチェーンは取引情報やデータを分散型のデジタル台帳に記録する技術で、データの改ざんがほぼ不可能な高いセキュリティと透明性を持つ仕組みです。複数のコンピュータで情報を共有・管理する分散型構造により、信頼性の高いデータ管理が可能となります。
ブロックチェーンは仮想通貨の基盤として知られていますが、現在ではその応用範囲が広がり、メタバースでも活用されています。
ブロックチェーン技術を基盤とした非代替性トークン(NFT)は、メタバースにおいて下記の役割を果たします。
- 権利の証明……NFTは一意のデジタル識別子を持ち、メタバース内で購入したアバター、アイテム、土地などのデジタル資産の所有権や使用・複製・表示する権利を証明する
- 透明性のある取引……メタバース内外で安全かつ透明性の高い取引が可能となる
生成AI
メタバースは広大な仮想空間であり、膨大な量のオブジェクトや環境、アバターなどを設計する必要がありますが、手作業では多くの時間とコストがかかります。
生成AIを活用することで、ユーザーが入力した簡単な指示(例:テキストや画像)を基に、自動的に複雑な3Dモデルや環境を生成することが可能です。
たとえば、「湖のほとりにある山荘」という指示を入力するだけで、具体的な景観や建物がリアルタイムで作成されます。
生成AIの活用で、従来の設計プロセスに比べて大幅な時間短縮とコスト削減が可能となり、個人でも手軽にメタバース内のコンテンツを作成できるようになりました。
さらに、ユーザー間のコミュニケーションを支援するために、リアルタイムで言語を翻訳したり、テキストから感情に基づいた適切な応答を生成したりすることもできます。
メタバースにおける世界の動向
国連の開発ネットワークを先導する機関である「国連開発計画(UNDP)」は、メタバースの潜在的な可能性に注目し、その初期段階の開発において特にSDGs(持続可能な開発目標)を促進する手段としての有用性を支持しています。UNDPが考えるメタバースを応用できる分野は下記のとおりです。
- 教育の変革と強化
- 生活の質と所得創出の改善
- 公共および民間サービスへのアクセス向上
- グローバルな協力やコミュニティ構築の強化
- 市民エンゲージメントの向上
- 新しい協力やコラボレーションモデルの実現 など
一方で、メタバースにはプライバシーの侵害や人権の濫用、不平等の拡大、社会的偏見の固定化、エネルギー使用に伴う環境問題などの課題が存在し、これらへの対策が必要であることを指摘しています。
当面の活動として、UNDPは以下の3つの焦点を掲げています。
- すべての人がメタバースにアクセスできる環境を整備する
- 南半球の視点を取り入れた多様で公平な開発を進める
- 権利に基づくシステムの構築を推進する
メタバースの将来の展望
メタバースは、地理的な制約を超え、人々を結びつける新たなプラットフォームとしての可能性を秘めています。将来性をいくつかの観点から整理しました。
メタバースのビジネスにおける活用例
メタバースは、さまざまなビジネスで活用されています。一例は下記のとおりです。
- ショッピング
- 旅行・イベント
- ゲーム
メタバースがどのように活用されているのか詳しく見ていきましょう。
ショッピング
ショッピングでは、リアルな買い物体験を仮想空間で再現することで、消費者の購買意欲を高めることが可能です。メタバース内の店舗では、商品の詳細を3Dで確認できるため、実際に店頭で商品を見ているような感覚を得られます。
また、アバターを通じて商品の試着や試用が可能な場合は、ニーズとの合致度をより高精度で判断できます。さらに、メタバース内で独自の世界観を演出することで、顧客エンゲージメントとブランド価値の向上につながります。
旅行・イベント
メタバース上に観光地をリアルに再現することで、ユーザーは自宅にいながら旅行体験を楽しむことが可能です。
また、音楽ライブやスポーツイベントをメタバース上で開催する場合、離れた場所にいる顧客もリアルタイムで参加できます。物理的な距離を超えたグローバルなユーザー参加も促進され、多くの人々がエンターテインメントを共有する機会が広がります。
ゲーム
メタバース内のゲームでは独自の経済圏が構築され、仮想アイテムの売買やNFTの活用が可能となり、新たな収益モデルが生まれると考えられます。
また、多人数参加型のゲームを通じて、ユーザー同士の交流やコミュニティ形成が進み、ソーシャルプラットフォームとしての役割も果たすことも期待できます。
メタバースのビジネス利用のメリット
メタバースをビジネスに利用することには、下記のメリットがあります。
- 新しい販促活動やマーケティング手法の展開
- コスト削減と運営効率の向上
- 多様な人材が活躍できる場の提供
- ブランド価値の向上
それぞれ詳しく見ていきましょう。
新しい販促活動やマーケティング手法の展開
メタバース上では、展示会やライブといったイベントを開催できます。顧客が遠方に在住しているためにリアルでは実現が難しい体験型プロモーションも行いやすいでしょう。
商品体験やブランドの世界観の演出を通じて、顧客との交流を深め、ブランド認知の拡大につなげることが可能です。
コスト削減と運営効率の向上
メタバース上でイベントを開催することで、会場費や設営の手間を削減できます。また、メタバースオフィスの導入によって物理的なオフィス維持費用も削減可能です。
さらに、物理的なスペースが不要なため、運営の柔軟性が向上します。ただし、長期的にはコスト削減になるものの、導入時には一定のコストがかかる点に注意が必要です。
多様な人材が活躍できる場の提供
メタバースオフィスでは、出社が困難な従業員や障害を持つ人も活躍しやすいため、人材確保の観点から有用です。
また、育児や介護との両立した柔軟な働き方を実現しやすくもなるため、家庭の事情による退職の減少にもつながります。
ブランド価値の向上
メタバースのような新しい技術を積極的に取り入れる姿勢は、顧客に先進的なイメージを与えます。先進的なイメージによって他社との差別化が可能です。
特に、仮想空間でのプロモーションや革新的な働き方の導入は、ブランド価値の向上に寄与し、顧客やパートナー企業からの信頼向上にもつながるでしょう。
メタバースのビジネス利用の課題
メタバースのビジネス利用には多くのメリットがある一方で、実現するためにはいくつかの課題を解決する必要があります。主な課題は下記のとおりです。
- 制作に時間がかかる
- 慣れているユーザーでなければ始めにくい
- 十分なスペックのデバイスが必要
それぞれ詳しく見ていきましょう。
制作に時間がかかる
高品質なメタバース空間を構築するには、長い時間と多くのリソースが必要です。特に、複雑なインタラクティブ要素を取り入れる場合、設計やプログラミングに多くの工数がかかり、プロジェクトが長期化する傾向があります。
また、納期管理が難しくなることで、計画通りに進行しないリスクも考えられます。このため、効率的な開発プロセスの策定や徹底したスケジュール管理が必要です。
慣れているユーザーでなければ始めにくい
メタバースには特有の操作やインターフェースが多いため、利用するのは難しいと感じる場合があります。快適に利用できるようになるまでに時間がかかり、普及が進まないことも考えられます。
この課題を克服するためには、直感的で使いやすいインターフェースの開発やサポート体制の構築が必要です。
十分なスペックのデバイスが必要
メタバースの利用には、高性能なデバイスや高速インターネット環境が必要である場合が多く、これが参入障壁となることがあります。また、顧客が利用する際もヘッドマウントディスプレイをはじめとするさまざまなデバイスが必要なため、普及が進まない可能性も考えられます。
この課題を克服するためには、低スペックのデバイスでも利用可能な軽量化技術や、普及率の高いプラットフォームへの対応が必要です。
メタバースの活用事例
メタバースをビジネスに活用した事例を6つ紹介します。
【三越伊勢丹】スマートフォン向け仮想都市空間サービス
三越伊勢丹が提供するスマートフォン向け仮想都市空間サービス「REV WORLDS」では、リアルと仮想が融合した新しいショッピング体験ができます。仮想伊勢丹新宿店が出店しており、デパ地下、ファッション、ギフトショップなど多彩なカテゴリの店舗が揃っています。
利用者は、仮想店舗内で実在の商品を選び、そのままオンラインストアで購入することが可能です。
さらに、アバターを用いた自由なコーディネートも楽しめます。ファッションアイテムやヘアスタイルを組み合わせて、個性を表現できるほか、伊勢丹オリジナル柄のウェアを身に着けることで、より独自のスタイルを演出することが可能です。
【川崎重工】インダストリアルメタバースを計画
川崎重工は、Microsoftとの協力を通じてインダストリアルメタバースを活用した新たなロボットビジネスの創出を目指しています。この取り組みは川崎重工の2030年ビジョンに基づくもので、「安全安心リモート社会」「モビリティ」「環境ソリューション」を実現するためのデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として進められています。
インダストリアルメタバースでは、デジタルツイン技術を活用することで、現実世界の工場や設備を仮想空間上に再現し、遠隔地からのロボット操作や共同作業が可能になります。現場に出向くことなくリアルタイムでのモニタリングや制御を可能にし、効率性や安全性を大幅に向上させる効果が期待されています。
【KDDI】新メタバース・Web3サービス「αU」
KDDIのメタバース・Web3サービス「αU」は、日本のコンテンツをグローバルに発信し、ユーザーとクリエイターをつなぐ新しいデジタルエコシステムです。音楽ライブやアート鑑賞、友人との会話を仮想空間で楽しめるなど、多彩な機能を組み合わせた包括的なメタバース体験ができます。
「αU live」では、360度視点で音楽ライブを視聴でき、アーティストと観客がリアルタイムでつながる新しいライブ体験を楽しめます。また、「αU market」はデジタルアートを購入できるマーケットプレイスで、クリエイターが制作したアート作品をNFTとして所有することが可能です。
さらに、暗号資産の管理を可能にする「αU wallet」や、仮想店舗でのショッピング体験を提供する「αU place」などもあります。
【バンダイナムコ】BANDAI CARD GAMES Metaverse Lobby
バンダイナムコが提供する「BANDAI CARD GAMES Metaverse Lobby」は、トレーディングカードゲーム(TCG)ファンのための専用メタバース空間です。ユーザーがアバターを作成し、全国の仲間と自由に交流しながら、さまざまなタイトルのカードゲーム対戦を楽しむことができます。
また、アバター衣装の組み合わせは約10,000通りで、プレイヤーは好みのアバターで楽しめます。無料で作成できるバンダイナムコIDのみで始められる点も魅力です。
参考:株式会社バンダイ「BANDAI CARD GAMES Metaverse Lobby(バンダイカードゲームズ メタバースロビー)」
【ANA】リアルとバーチャルが融合する新感覚旅行アプリ
ANAが提供する「ANA GranWhale」は、ユーザーが「V-TRIP」や「Skyモール」といったバーチャル空間で、実際の旅行先の魅力を360度視野で体験できるアプリです。
「V-TRIP」では、現地の観光地をバーチャルで訪れるだけでなく、歴史や文化を学びながら、まるでその場所にいるような没入感を味わえます。一方、「Skyモール」には現地の特産品やお土産をバーチャル空間内で購入できる機能があり、旅行気分をさらに盛り上げます。
さらに、アプリ内で集めた「グランチップ」はANAのマイルへの交換も可能です。
【株式会社メタバーズ】メタバースにAIコンシェルジュを導入
株式会社メタバーズは、メタバース上にショールームや展示会場、VR店舗などを作ることができる「メタバース® CYZY SPACE」を提供しています。同サービスで作成したルームには、自社でスタッフを配置する必要があります。しかし、24時間365日対応のサポートスタッフを配置することは、費用や人材確保の観点から困難な場合もあるでしょう。
そこで同社は、AIチャットボットおよびアバターボット作成サービス「メタバース® Botbird for Business」を開発しました。同サービスを利用することで、24時間365日対応で生成AIによるテキスト返信を行う「AIコンシェルジュ」をメタバース内のルームに設置できます。
ユーザーは24時間対応のサポートを受けられて、必要な情報をスムーズに入手できるようになります。
メタバースをビジネスに活用しよう
メタバースは、ショッピング、教育、リモートワークの強化など、さまざまな分野での導入が進んでおり、従来のビジネスモデルに革新をもたらしています。顧客との接点を拡大し、ブランド価値を向上させると同時に、業務効率化や柔軟な働き方を実現します。
新しい販促活動や体験型プロモーション、コスト削減、多様な人材の活躍支援など、活用方法はさまざまです。自社がメタバースをどのような形で活用できるかを検討し、導入を検討してみてください。
▶監修:金川和也氏
【プロフィール】
株式会社LocalSquare 代表取締役
2022年から2Dメタバース「Gather」との協業をきっかけにメタバース事業に参入。現在は、韓国の2Dメタバース「ZEP」の唯一の日本公式パートナーとして活動。
大手企業から中小企業、自治体と幅広く累計150社以上のメタバース活用支援を行ってきた。
∟株式会社LocalSquare
https://localsquare.co.jp/