XRとは?VR・AR・MRとの違いや市場規模・事例を紹介
XR(クロスリアリティ)は、現実と仮想を融合させ、新たな体験を提供する技術の総称です。ゲームやエンターテインメントの領域だけでなく、医療、教育、製造業、観光業といった多様な分野で注目されており、日々進化を遂げています。
本記事では、XRの基本から、市場規模や課題、将来性、活用事例などについて詳しく解説します。
XRの種類
VR(仮想現実)
AR(拡張現実)
MR(複合現実)
XRが注目されている背景
高精細な画像と広い視野角のデバイスの登場
5Gのような大容量通信の実現
リモートでのコミュニケーションの拡大
XRの体験に必要な準備
スマートフォンやタブレット
ARグラスやVRゴーグル
XRの導入の課題
快適な操作性や装着感のデバイスが必要
高精細なコンテンツの制作にコストがかかる
XRの活用事例
【サントリー】MRを新人教育や作業の正確性向上に活用
【トヨタ自動車】MRを自動車の整備作業の効率化やトレーニングに活用
【メディカロイド】VRで遠隔手術を行える「hinotori」
【大阪駅】XRを活用した多数のイベントを開催
XR(クロスリアリティ)とは
XR(クロスリアリティ)は、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった先端技術の総称で、現実の枠を超えた新しい体験を提供する技術を指します。現実には存在しない視覚や触覚、音響といった感覚情報を活用し、ヘッドマウントディスプレイやスマートフォンを通じて、利用者に没入感のある体験を提供します。
XRは「Cross Reality」や「Extended Reality」の略とされる場合もありますが、明確な学術的定義はなく、技術や文脈によって解釈が異なる多義的な言葉です。特にビジネス界で注目を集めたことから普及し、数学的な「変数」を意味する「X」に由来して「xR」と表記されることもあります。
XR技術はエンターテインメントやゲームだけでなく、医療、教育、製造業など多岐にわたる分野で応用され、新しい価値を生み出しています。
XRの種類
XRに含まれる主な技術は下記のとおりです。
- VR(仮想現実)
- AR(拡張現実)
- MR(複合現実)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
VR(仮想現実)
VR(Virtual Reality)は仮想現実を体験できる技術で、コンピュータグラフィックス(CG)や360度カメラで作られた映像をヘッドマウントディスプレイを通じて見ることで、没入感のある体験ができます。360度どの方向を見ても仮想空間が広がり、まるで現実の中にいるかのような感覚を楽しめるのが特徴です。
従来はゲーム分野での利用が目立っていましたが、近年ではその応用範囲が大きく広がっています。たとえば、仮想空間に自分の分身であるアバターを表示して行うVRミーティングや、大学のキャンパスを仮想的に再現したVRキャンパス、実際の業務を仮想空間でシミュレーションするVR研修などがあります。
AR(拡張現実)
AR(Augmented Reality)は、現実世界に仮想的な情報を重ね合わせて表示することで、現実を拡張する技術です。スマートフォンやヘッドマウントディスプレイを通じて現実の風景を見た際、その上にデジタルデータや画像が表示され、現実の中に仮想が溶け込みます。
たとえば、KDDIや渋谷区観光協会などが共同で実施した「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」では、渋谷のスクランブル交差点でスマートフォンを掲げると、上空を魚が泳ぐ様子や天気予報、地図情報などがARとして表示されました。
さらに、ARは実生活での応用も進んでいます。小売業や家具業界では、スマートフォンを使って自宅の部屋に仮想の家具を配置し、購入前に商品のイメージを確認できるサービスが増えています。
MR(複合現実)
MR(Mixed Reality)は、現実世界と仮想世界を融合させる技術です。AR(拡張現実)が現実世界に仮想情報を重ねることで現実を「拡張」するのに対し、MRは現実と仮想をより深く「複合」し、両者が一体化した体験を提供する点が特徴です。現実と仮想が区別なく共存し、ユーザーが自然に両方の要素とインタラクションできる環境を作り出します。
この技術の応用が注目されている分野は、建設業、製造業、医療業など、現場作業が主な業界です。たとえば、建設現場では完成後の建築物の立体映像を現地に重ねることで、設計通りのイメージを具体的に共有できます。また、現場の進捗状況を3Dカメラで記録し、遠隔地の関係者が確認するシステムもあります。
XRが注目されている背景
XRは、下記の背景により注目されています。
- 高精細な画像と広い視野角のデバイスの登場
- 5Gのような大容量通信の実現
- リモートでのコミュニケーションの拡大
それぞれ詳しく見ていきましょう。
高精細な画像と広い視野角のデバイスの登場
XR(クロスリアリティ)が注目される背景には、「高精細な画像と広い視野角を持つデバイスの登場」が大きく影響しています。映像技術の進歩により、4Kや8Kといった高画質の映像が利用可能になり、また視野角が200度に達するデバイスが開発されるなど、XR体験の臨場感が飛躍的に向上しました。
5Gのような大容量通信の実現
XR(クロスリアリティ)が注目される背景の1つに、「5Gのような大容量通信の実現」が挙げられます。5G通信は、高速・大容量かつ低遅延の通信システムです。
5Gによる高速通信は、XR体験の安定性を大幅に向上させます。従来の通信システムではネットワーク遅延が発生することがありましたが、5G通信であればネットワークの安定性が高いため、自然な動作や即時応答などをより安定的に行えます。
リモートでのコミュニケーションの拡大
新型コロナウイルスの影響により、非対面でのコミュニケーションが急速に普及しました。この流れの中で、XR技術を活用したコミュニケーションが注目されています。
たとえばバーチャルオフィスでは、同僚と仮想空間内で会話や共同作業が可能で、リアルなオフィスと同じような環境を再現できます。
XRとメタバースの関係
XRが現実と仮想を融合した空間を創出する技術の総称であるのに対し、メタバースはその空間を活用して人々が交流や活動を行うプラットフォームやサービス全体を指します。
なお、総務省は下記のような性質を持つものをメタバースとしています。
- 臨場感や没入感、自己投射性、再現性を持つ
- ユーザー同士がリアルタイムでインタラクティブに交流できる仮想空間
- 誰でも参加できるオープン性がある
XRの市場規模
XR(クロスリアリティ)は、急成長するメタバース市場とともに拡大が見込まれる分野です。世界のメタバース市場規模は、2022年の461億ドルから2030年には5,078億ドルに達すると予測されています。この市場の成長は、XR技術の普及を強力に後押しする要因です。
また、VR、AR、MRなどのXR技術を支える360°動画対応HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の需要も拡大しています。国内市場におけるHMD機器の出荷台数は、2022年に約708千台と見込まれ、2027年には3,860千台に増加すると予測されています。
XRの将来の展望
ビジネスユースのXRは2025年から2026年にかけて本格的に活用が始まると予測されています。企業での概念実証や試行が広がり、エンターテインメント分野で用いられている3D開発技術や若年層ユーザーがその発展を後押しすると考えられています。
さらに、ビジネスで使用されるチームコミュニケーションツールへのXR機能統合が進むことで、業務内での没入感のあるコラボレーションが実現することも予測されています。
中長期的には、統合開発環境(IDE)を用いた仮想空間の提供や生成AI技術を活用した効率化が一般化し、エンタープライズ領域でのXR技術の普及が進むとのことです。
また、5Gの普及や高性能デバイスの登場に伴い、2027年以降にはエンタープライズのさまざまな業界へのXR技術の浸透や、サイバー空間の拡大・統合が進むと見込まれています。
XRの体験に必要な準備
XRの体験には、以下の準備が必要です。
- スマートフォンやタブレット
- ARグラスやVRゴーグル
それぞれ詳しく見ていきましょう。
スマートフォンやタブレット
XRは、スマートフォンやタブレットにアプリをインストールするか、指定されたWebサイトにアクセスすることで体験できます。
デバイスに内蔵されているカメラを使用し、現実世界にデジタル要素を重ねて表示するAR体験を行えます。
ARグラスやVRゴーグル
ARグラスは、現実の視界内にデジタルコンテンツを直接重ね合わせることが可能なデバイスです。スマートフォンとタブレットと接続したARグラスを装着して使用します。
一方、VR体験にはVRゴーグルを使用します。ゴーグルを装着すると現実世界が視界から消え、ユーザーは360度全方向に広がる仮想空間に入り込むことができます。
XRの導入の課題
XRのビジネスへの導入には、下記の課題があります。
- 快適な操作性や装着感のデバイスが必要
- 高精細なコンテンツの制作にコストがかかる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
快適な操作性や装着感のデバイスが必要
現在のVRゴーグルやARグラスには、長時間の装着時に生じる疲労やVR酔い、装着時の違和感といった課題があります。XR技術を効果的に活用するためには、快適な装着感と操作性を兼ね備えたデバイスの開発が欠かせません。
また、コンテンツ側の工夫も重要です。たとえば、ユーザーが没入感を損なわずに快適に体験できるよう、移動速度や視点の切り替えを自然に設計したり、注視点をガイドする仕組みを導入したりする方法があります。
さらに、職場などでXRを導入する際には、デジタルデバイド(技術への習熟度の差)も懸念されます。技術に不慣れな従業員にとって、複雑なデバイスの操作は心理的なハードルになる可能性があります。そのため、デモンストレーションやトレーニングを通じて未経験者が技術の利便性と効果を実感できる環境を整備することが、XRの円滑な導入において重要です。
高精細なコンテンツの制作にコストがかかる
XR技術の導入において、高精細なコンテンツの制作が大きな課題の1つです。高い没入感やリアルな表現を求められるXRコンテンツを制作するには、膨大な時間とコストが必要であり、専門的なスキルを持つ人材の確保も欠かせません。
特に、3Dモデリングやリアルタイムレンダリング技術には高度な知識が求められるため、制作の負担が大きくなる傾向があります。
近年では生成AIの導入により、XRコンテンツ制作の一部を効率化する動きが見られます。しかし、生成AIだけでは完全な品質を保証することは難しく、専門家による監修や修正が不可欠です。生成されたデータに対して細部の調整やリアルさを追求する作業が求められるため、依然としてコスト削減には限界があります。
コスト削減の観点から、自社で既に保有しているCADデータや、信頼性のあるオープンデータを活用することが推奨されています。新たにゼロから制作する負担を軽減しつつ、品質の高いコンテンツを効率的に開発することが可能です。
XRの活用事例
XRをビジネスに活用し、業務効率化や新人教育などを実現した事例を4つ紹介します。
【サントリー】MRを新人教育や作業の正確性向上に活用
サントリーグループでは、MicrosoftのHoloLens 2とDynamics 365 Mixed Realityアプリを活用し、増加する需要に対応するとともに、新人教育の効率化や複雑な作業手順の正確性向上を目指しています。
同社の製造現場では定年退職が増加する中で、新人研修やOJTの効果を高めることが課題となっています。さらに、50種類以上のチェックリストが必要な複雑な工程であることも課題の1つです。
これらの課題に対処するため、MR技術を導入した実証実験を実施しました。200段階に及ぶ手順を3D手順書に変換し、白州蒸溜所での研修で3ヶ月間にわたり試用した結果、研修の効率が大幅に改善され、複雑な作業手順をスムーズに習得できました。
参考:Microsoft「サントリーが HoloLens 2 と Dynamics 365 Mixed Reality アプリケーションを活用し、品質維持と高まる需要への対応を実現」
【トヨタ自動車】MRを自動車の整備作業の効率化やトレーニングに活用
トヨタ自動車は、全国のGR Garage店舗にMicrosoftのHoloLens 2を導入し、自動車整備作業の効率化とトレーニングの改善に取り組んでいます。
従来の2Dマニュアルでは理解が難しかった配線図や艤装図、新型車の機能解説を視覚的に把握できるようになりました。
さらに、Microsoft Dynamics 365 Guidesを利用して、3Dホログラムを自動車に重ね合わせて表示することで、作業ガイドやトレーニングの精度向上に役立てています。
参考:Microsoft「トヨタ自動車が全国の GR Garage に HoloLens 2 を導入開始。自動車整備の働き方改革に Mixed Reality テクノロジを活用」
【メディカロイド】VRで遠隔手術を行える「hinotori」
「hinotori」は、川崎重工業とシスメックスの技術を結集して開発された革新的なシステムです。施術者の微細な動きを再現し、低侵襲手術の実現を支援することを目的としています。
8軸構成のコンパクトなオペレーションアームはスムーズに動作するため、手術を円滑に行えます。また、「エルゴノミクスデザインのコックピット」と「フルHDの3Dシステムによる高精細画像」の環境下で作業できるため、手術の精度向上と負担軽減が可能です。
【大阪駅】XRを活用した多数のイベントを開催
大阪駅では、開業150周年を記念して、XR技術を活用した革新的で多彩なイベントが開催されました。その目玉となったのが「AR大阪鉄道博物館」です。
大阪ステーションシティの各広場に設置された「不思議な駅名標」をスマートフォンでスキャンすると、歴代の名列車たちがAR技術で目の前に出現し、列車と一緒に記念写真を撮影してスマホに保存できます。
XRをビジネスに取り入れて独自性を追求しよう
XR(クロスリアリティ)は、顧客体験を強化し、ブランド独自の価値を提供できる技術です。
MR(複合現実)を活用したトレーニングや、AR(拡張現実)による観光体験など、革新的なサービスを通じて競争力を高める取り組みが注目されています。これらの技術を活用することで、顧客との接点を深めるだけでなく、ブランドの差別化を図ることが可能です。
XRをビジネスに取り入れて独自性を追求し、企業の成長につなげましょう。
▶監修:金川和也氏
【プロフィール】
株式会社LocalSquare 代表取締役
2022年から2Dメタバース「Gather」との協業をきっかけにメタバース事業に参入。現在は、韓国の2Dメタバース「ZEP」の唯一の日本公式パートナーとして活動。
大手企業から中小企業、自治体と幅広く累計150社以上のメタバース活用支援を行ってきた。
∟株式会社LocalSquare
https://localsquare.co.jp/